旅人よ
白い雪原に 旅人ひとり
黒々と横たわる川を 渡ろうか
どっちにしようかと 迷っている
森の神さまが 優しくささやいた
こちらにお出で 一休み
心の荷物を 預けなさい
人生峠は いろいろだ
いい加減でいいんだよ
ありのままに 受け入れて
なるようにしか ならさいさ
一夜が明ければ 朝が来る
朝の力を 信じなさい
冬の日射しが温かい山梨県ボランティア・NPOセンターの一室で、彼女は泣きながら話し出した。
「中学1年生の息子が学校へ行かない。何不自由なく育てたはずなのに。学校で何があったか判らないけど。
学校に行けない息子が理解できない。だけど、我が子がかわいそうでしかたない。
自分としては精一杯やっているんだけど、これから先どうしたらいいんだろうか。
同級生の母親などにはとても胸の苦衷を相談できやしない。担任の先生に相談しても埒があかない。学年主任の考えも「親の責任だから」とも言いたげな感じで、心から相談できるような心境になれない。
私自身がおかしくなってしまったようで、病院にいったり、カウンセリングの先生に相談したりして、ようやっと落ち着いている状況なんです。」
不登校や閉じこもりの問題は大きな問題ではあるが、その実態は個別的で画一的に対応できるものではない。
いまや社会問題として対応しなければならないが、さて・・・・・・。
僕は、彼女の話をずううっと聴いていた。一つひとつ、彼女にも言い分があり、友だちにも相談できない辛い思いや、学校への相談結果が思わしくないことへの怒りにも似た苛立ちが、いやというほど伝わってきた。
話しを始めて3時間。冬の日射しは早くも西に沈む頃になってしまった。
僕は、その間何をしたんだろうか。結果的には何もしなかった。ただただ、泣きじゃくりながら強い口調で語る彼女の心を受けとめていただけだった。
でも、相づちを打ちながら言った。
「お母さん。母親は家庭の太陽だよ。貴方の笑顔が家庭を変える力だ。僕の小さかった頃、母の笑顔が嬉しかった。でも、愚痴ばかり言っている母もいやだったけど、かわいそうに思えたよ。きっと息子さんも貴女の心の動きを敏感に感じながら、毎日を暮らしているんじゃあないかな。」
彼女は、時々語る僕の話を聞きながらだんだん優しい表情と口調になっていった。そして、こう言った。
「わかりました。今日から家に帰ったら、ありがとうって言葉をいっぱい使うようにしてみます。」
思いっきり泣きながら話し終えた彼女は何を会得したんだろう。その表情は、疲れから癒された感じだった。
「ああ、よかったなあ。今日は、これで帰りましょう。また、いつでも来てください。一休みのために。」